[メイン2] イルル : ────そうして、目の前の奴がなんか消えた。

[メイン2] イルル : 仮面の人間と一緒に、だ。

[メイン2] イルル : 何だったのだ、と思い返しながら、顔を上げると……

[メイン2] イルル : ……あ、さっきの奴
竜たる私に話しかけてきた、奇怪な輩。

[メイン2] 貴腐読アイ : そそくさと、自分の部屋に逃げるように

[メイン2] イルル : ……仮面の男は私を見て笑い、くせっけは困っていた。

[メイン2] イルル : それなのに、アイツは私を見てもたじろぐこともなく、むしろ平等に接しようとしていた……
なんだ、アイツ……

[メイン2] イルル : それに、あの体……。

[メイン2] イルル : ……気になる。

[メイン2] イルル : そして、彼女が部屋に入ろうとする、その扉を……

[メイン2] イルル : ガッ。

[メイン2] イルル : 爪で止める。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「はいい!?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…ちょいちょい、部屋の場所までは教えられないぞ」
おいおいおい

[メイン2] 貴腐読アイ : なんでこっちに来るんだ、ホント!

[メイン2] イルル : 「竜を舐めるな」

[メイン2] イルル : 「さっき座った時、あの時の匂いでお前の後を付けてきたんだ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「マジか、匂いは…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「あ~~…」

[メイン2] イルル : そう、食堂の隣に座った時。
”ヘンな奴”だ、と思った時からロックオンしていた。

[メイン2] 貴腐読アイ : そうだよな…熟れたワインの匂いだもんな

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…んで、何」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「何か御用でござんす?」

[メイン2] イルル : こくり、頷き。

[メイン2] イルル : 「…ああ、用があったから来たんだ」

[メイン2] イルル : 「……あそこで聞けなかった話だ、お前は……なぜ、怖くないんだ?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] イルル : そうして、竜の爪をアイに向ける。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「あ~…じゃあまぁ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「簡単に、そんで分かりやすく言う」

[メイン2] イルル : 「聞く」

[メイン2] 貴腐読アイ : 瞳を細めて

[メイン2] イルル : そのまま、じっとアイの瞳を見つめる。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「殺せるなら怖かねぇ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「爪も牙も」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「噴き出す炎だって」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「女神の汚濁より怖かったことはない」

[メイン2] イルル : 「私が、殺せる……?いやいや、待て……」
私がそんな、人に恐れられないなんて……

[メイン2] イルル : 「それじゃあ、その……なんだ?女神の汚濁、か?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「おう」

[メイン2] イルル : 「それは……私よりも、竜よりも…怖いもの、なのか……?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…入れ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「廊下で話すもんじゃあない」

[メイン2] 貴腐読アイ : ため息吐いて

[メイン2] 貴腐読アイ : 扉を開いて、促す

[メイン2] イルル : 「むう…そうか、私はここでもいいのだが」
と言いつつも、素直に従って中に入る。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「他の連中が嫌がらぁよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : そういって

[メイン2] 貴腐読アイ : 部屋の中の、ベッドに座り

[メイン2] 貴腐読アイ : イルルに椅子を手で指す

[メイン2] イルル : 「むう……」
こいつ、やはり……他者を考える、のか……

[メイン2] イルル : ますます、竜とは、違うんだな……

[メイン2] イルル : そうして、椅子に座る。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「んじゃあ、怖い理由だな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私の世界の話になるが、いいか」

[メイン2] イルル : 身長はアイと同じくらいなので、座って目線が重なりつつ。

[メイン2] イルル : 「もちろん…聞きたい」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…昔な」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私は戦争に参加してたんだがァ…」
歯切れ悪そうに言い、続けて

[メイン2] 貴腐読アイ : 「まぁ決着は付かなかったんだ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「どいつもこいつも死に切れない、私も同じくな」

[メイン2] イルル : 耳を傾けて、目を見つめ。

[メイン2] イルル : 「…戦争というのは、世界が変わっても同じなんだな。竜もよくしていた」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「でもまぁ、そりゃあまだいいのよ」

[メイン2] イルル : 「……ああ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「死ねもせず恥さらすのだっていいが、問題は」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…土地が狂った」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「戦争の舞台になった荒野を中心に」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「赤く染まって、汚れてったんだよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私のハラワタみてーにな」

[メイン2] イルル : 「……汚れる…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「赤く汚れて、おかしな植物が生えて」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そんで」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「動物もおかしくなった」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「野犬は馬車よりでかくなった、カラスが飛竜みたいになった」

[メイン2] イルル : ……そういえば、あの時の”泥”も赤い色をしていたような……

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そんで、竜も腐っていった」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「砦一つ潰せるようなデッカイ竜がだ」

[メイン2] イルル : 「……竜すらも、負けたのか…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「腐敗に蝕まれて、な」

[メイン2] イルル : その言葉に、自らの手を見つめつつ。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私達は…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「腐敗の女神の軍勢だった」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私は、その腐敗そのものだ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「肉も骨も腐ってんだ、だからこうだ」

[メイン2] イルル : 「……お前が、腐敗の女神の……」

[メイン2] イルル : ごくり、と唾を飲み。

[メイン2] イルル : 「…それなら、腐敗させる者として……何か、思わなかったのか?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…想いもするし、おかしいとも思うさ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「でも、私はそう思えるだけ運がいいんだぞ?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「他の仲間は殆ど沼に沈んだり、正気なんぞとっくに失ってた」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「目に付く敵全員腐らせて八つ裂きにする死にぞこないの軍団さ」

[メイン2] イルル : こいつは……”人”でありながら、他者を無意識にでも、害してしまっていたのか……
幸か不幸か、”正気”を保ってしまっていたまま。

[メイン2] イルル : 「……なぜ、そんな事をしていたんだ、お前は」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「騎士の誉さ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「嘗て…」

[メイン2] イルル : 「……誉れ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…神の軍勢だなんて、浮かれた騎士のな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 乾いた笑みだけが漏れて

[メイン2] 貴腐読アイ : 「なぁ、わかるかい」

[メイン2] イルル : その笑みに、びくりと体を震わせて。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「世界を奪い合った戦争で世界を穢した気分ってさ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「おかしな話だよな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そうやって戦いつくした"女神サマ"も」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「世界に見放されたんだ、妥当だろ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…竜だって、人だって、神だって」

[メイン2] イルル : 「…それなら、その軍勢にいたお前も……か……」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「怖いもんか、全員殺したんだよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…そーさ」

[メイン2] イルル : 「……全部殺したからこそ、お前は怖くない……泥だけが、怖い」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「ああ、悍ましいね」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そんなモンが誰かと仲良くしてちゃあそりゃあ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「気が気でないさ、なぁ」

[メイン2] イルル : 「……」

[メイン2] イルル : 「それならば……お前は…誰かと共にいる気では、ないのか」

[メイン2] イルル : ”仲良くしてはいけない”
竜と人との間に教えらえれた、そのルール。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…逆に考えて」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そんな存在と傍に居て、腐らないと思うか」

[メイン2] イルル : 「……っ」

[メイン2] イルル : その物言い、そして先ほどの乾いた笑みを思い浮かべて。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「なぁ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「ここはな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「異邦人の坩堝さ」

[メイン2] イルル : ……きっと、そうなった経験があったのだろう。
目の前の人は、自らの傍にいた者を泥で飲み込まれた……

[メイン2] イルル : 「……ああ…?そ、うだな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「好き勝手するにゃあ、余りにもごちゃまぜだ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…皆、肩身が狭いのさ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「だから、私みたいなのは問題無しでいないとよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「安心できないだろ?」

[メイン2] イルル : 「……そう、かもしれない」

[メイン2] イルル : 「……が」

[メイン2] イルル : ちらり、と目をアイへと向ける。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…?」

[メイン2] イルル : 「それは、人の尺度だ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] イルル : 「ルールを設けて、誰かと関わらないで」

[メイン2] イルル : 「そんな決めたルールにお前が縛られて、偽りの安心で過ごすのか」

[メイン2] イルル : そうだ、人と竜は関わらない。
そう決めたのは……

[メイン2] イルル : 私じゃない、誰かだ。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「どうだろーな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「でも、一つ言えるのは」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…私にゃわからなんだ、さ」

[メイン2] イルル : そして、こいつも……
誰かのルールに、したがっている。

[メイン2] イルル : 「………」

[メイン2] イルル : 「……うぐ、ぐぐぐ」

[メイン2] イルル : 「……がぁっ!!!」
座っていた椅子を持ち上げて。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「うぉおい!?」

[メイン2] イルル : 力の限り引き裂こうとする。した。

[メイン2] イルル : 椅子は……砕け、るぎりぎり。
一応とどまってはいる。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「お、おおう」

[メイン2] イルル : 「なんだ!?お前はよく分からない奴だな!」

[メイン2] イルル : 「泥と言う奴がどうこう、というなら……」

[メイン2] イルル : ぴしり、爪を向けて。

[メイン2] イルル : 「なぜ……私に声を掛けたのだ、親しくなるかもしれないのに」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…そりゃあ…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…行きついた先で、誰にも親切にされないなんて」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「寂しいだろうよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : …居場所がないってのは、苦しいんだから

[メイン2] イルル : ………。

[メイン2] イルル : 誰にも親切にされず、誰とも関われず、誰とも遊べない。
結果残ったのは、その力だけ。

[メイン2] イルル : 「それは…」

[メイン2] イルル : 「……お前だって、同じだろ」

[メイン2] イルル : 私は、関わってはいけないと教わったから。
でもあいつは、関われないから。

[メイン2] イルル : 「私は、人と竜は…戦うだけで、交わらないと聞いていた」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…交わらない」

[メイン2] イルル : 「だが、ここにいる人間は……お前の言う通り、異世界にいるものが集まって、別種と関わろうとしている……」

[メイン2] イルル : 「…ああ、決して仲良くならない、戦争になるだけだと」

[メイン2] イルル : 乱暴に、椅子を投げて。

[メイン2] イルル : 「……お前はどうして、そう親切にしようと出来るんだ…!?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」
その椅子を掴み

[メイン2] 貴腐読アイ : 「誰かが助けてくれたっていいじゃないか、人情までは腐らねぇよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…それに」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「……」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そうしてやりゃあ…誰も私のことを腐り果てたやつだなんて思うわず済む」

[メイン2] イルル : 「……腐りはてた奴……」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「ただの親切なアイツ、でいいんだ」

[メイン2] イルル : 「……」

[メイン2] イルル : その言葉に、ぐぐぐと顔をゆがめて。

[メイン2] イルル : 人と竜は仲良くしてはならない……
泥と人は関わらない……

[メイン2] イルル : 「そういう態度が、嫌なんだ…!!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…んだよ」

[メイン2] イルル : 「私は、あの食器って奴を学びたいんだ!」

[メイン2] イルル : 「それなのに、お前がさっきみたいに逃げられてたら……無理だろ!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] イルル : 「それに、それに………」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…落ち着け、落ち着けって」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…悪かった」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「急にいろいろ言いすぎた、怖くない理由だけだったってのにな」

[メイン2] イルル : わなわなと、震えだして。

[メイン2] イルル : 竜と、人は仲良くしては……。

[メイン2] イルル : ……。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…なあ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「名前は」

[メイン2] イルル : 「……イルル!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そうか、イルルか」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…私はアイ」

[メイン2] イルル : その怒りのままに何かまた、暴れそうになったが。
落ち着け、と言われて収まり。

[メイン2] イルル : 「……アイ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「よし、じゃあ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「まず謝る」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「正直、私の満足にお前を付き合わせたのは良くなかった」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…だから」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 顔を伏せつつ

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…お前が満足するまでは、付き合う」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「正直」

[メイン2] イルル : 「……私が満足するまで」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…そんなに怒るとは思ってなかったさ、私」

[メイン2] イルル : 「……だって」

[メイン2] イルル : 「そんな……私なら、ムカついて全部壊すのに」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…おう」

[メイン2] イルル : 「お前自身は、なんてことないようにしている」

[メイン2] イルル : 「……それの意味が分からないから、むしゃくしゃしたんだ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…成程な」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そこら辺はまぁ…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…こっちから歩み寄らねぇと、か」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「イルルにとっちゃ…まぁ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「知らない事、だろ?」

[メイン2] イルル : 「…たぶん」

[メイン2] イルル : アイへと、目をやる。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そこらへんも…まあ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「教えるさ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…というか、知ってくことになるよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私と一緒にいて、どう思うかとか」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…後悔するかとか」

[メイン2] イルル : 自らの手を握りつつ。

[メイン2] イルル : 「……お前と一緒にいて、感じたことは……今、ある」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…?」

[メイン2] イルル : ただ、その感情は……久しく感じてなかったし、それに何か思う事も……

[メイン2] イルル : なにより、私は竜だから……
そんな感情、持ってはならない…が。

[メイン2] イルル : 「私は、お前と話すのは、好きだ」

[メイン2] イルル : 楽しかった、その感情。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…成、程」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…なんだ、意外と舌は腐ってなかったらしい」
伏せ気味に笑いつつ

[メイン2] イルル : その笑いに、首をかしげて。

[メイン2] イルル : 「な、なぜ笑うんだ……!?人と竜は関わってはならないのに、こうして好きと思ってしまうのは、ヘンだろ!?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「んなこたないだろ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私の友達には花と一緒に戦うやつもいたぞ」

[メイン2] イルル : 「花…!?」

[メイン2] イルル : 「そ、そんなの聞いたことない……いや」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…ははは、まー」

[メイン2] イルル : 「…仲は悪く、ならない、のか……?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「ん~…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「大事に育ててたな…確か」

[メイン2] イルル : 目を丸くさせつつ。

[メイン2] イルル : 「……大事、に……」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「まぁなんだ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…別に変には思わないさ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「竜だってなんだって、生きてんだから」

[メイン2] イルル : 「………それは、わからない」

[メイン2] イルル : 「わからないから」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「生きてるさ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…おん」

[メイン2] イルル : アイの手を、掴む。

[メイン2] イルル : 両手でぎゅっと。

[メイン2] イルル : 「その、生きてるから……仲が悪くない、というのもわからないんだ」
「だから、それも教わる」

[メイン2] イルル : 「それまでは、腐らずお前の傍にい続けてやるぞ!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…んん」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…仕方ない、よなぁ…ったく」
嬉しそうにはしつつ、その目を見て

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…じゃあ私も」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「逃げずに残る、いいな」

[メイン2] イルル : 目はにかっと、笑いつつ。

[メイン2] イルル : 「ああ!」

[メイン2] イルル : そのアイの言葉に、笑い顔がさらに強まりつつ。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…まったく」
クスリと笑い、思う

[メイン2] 貴腐読アイ : 腐れても、存外

[メイン2] 貴腐読アイ : 体温とは、無くならぬものだと

[メイン2] 貴腐読アイ : …まぁ、こいつがあったかいだけかもだけどさ

[メイン2] イルル : そうだ、確かに。
こいつは今もこうして逃げないでくれている。

[メイン2] イルル : それに、腐れてるって言ってても、しっかりと暖かいからな。

[メイン2] イルル : それなら、幾らでも掴んでいられる。

[メイン2] イルル : それは……うん。
………私にとって、とっても嬉しい、気がする。

[メイン2] : こうして、竜と騎士の間には

[メイン2] : ────”腐れ縁”が、出来たのだった。

[メイン2] :  

[メイン2] :  

[メイン2] :  

[メイン2] イルル : そうして戦いは終わったわけだ。

[メイン2] イルル : 何やら二人の少女は話しているし、光が射しているのも彼女ら。

[メイン2] イルル : ならば、日陰者はそれを邪魔しないように……と。

[メイン2] イルル : 「よし、じゃあ…行くか」

[メイン2] イルル : 有無を言わさず、アイを抱っこして。

[メイン2] イルル : ばさりと広げたままの翼をはばたかせ、飛ぶ。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「行く…?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「ってオイ!?飛ぶのか!?」

[メイン2] イルル : 「私達の仕事は終わったからな、力を使ったおかげで腹が空いた」

[メイン2] イルル : 「ん?飛んでは…ダメだったか…?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「えっいや…あ~…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…いいよ、飛べよ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「私、空飛んだ経験はないし」

[メイン2] イルル : ばさばさ、と翼を広げる。
その姿もアーセルトレイの人間に見られているだろうが。

[メイン2] イルル : 「……!」

[メイン2] イルル : 「それじゃあ、今度は私が教える番だな!」

[メイン2] イルル : にかっと、嬉しそうに笑って。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…ふふ、ったく」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「ほら、落とすなよ?」

[メイン2] イルル : 「大丈夫だ!私も人を乗せて飛んだことは無いからな!」

[メイン2] イルル : それでも、落とさないようにか。
胸と腕を器用に使って挟んでおく。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「よくねぇじゃねぇかそれじゃあ」

[メイン2] イルル : 「アイは大切な奴だ」

[メイン2] イルル : 「だから壊したくはないから、気をつける」
その言葉と共にギュッと、抱きしめて。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…はは、もう」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「まぁ…そのだな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「窒息しないくらいで頼む…」
胸の中でもごもご言いつつ

[メイン2] イルル : 「…うん」
ばさばさ、羽ばたく音が空を響かせる

[メイン2] イルル : 「はっ…ごめん!火炎袋に顔を突っ込ませてた…!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…んじゃ、よろしく頼む」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「火炎袋なのかこれ…」

[メイン2] イルル : 慌てて、窮屈にならないくらいにしておく。

[メイン2] イルル : 「そうだぞ?炎を吐く時はここが光る」

[メイン2] イルル : 「あと、そのー……」

[メイン2] イルル : 楽しそうに喋っていたイルルが、突然舌の滑りが悪くなる。

[メイン2] イルル : 目を逸らして、バツが悪そうにしつつ。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…うん?」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…なんだよお前でも言いずらいってあんのか」

[メイン2] イルル : 「うー……えっと、そのぅ……」

[メイン2] イルル : 『物だけならな』
『でもここの食堂の人にとっちゃ気遣ってほしいもんだ』

[メイン2] イルル : アイの言葉を思い出して。
あわあわと口が何度か動き。

[メイン2] イルル : 「……椅子のこと、ごめん」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…あ~」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「いいよ、別に」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「椅子くらいすぐ作り直せる」

[メイン2] イルル : ……私は分からないが、きっと……アイは悲しんでしまうのだろう。

[メイン2] イルル : 「……う、うぅう…えっ」

[メイン2] イルル : 「作り直せるのか……!?あれ!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「問題ない」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「木を切って組み立てるんだしな」

[メイン2] イルル : 私なら怒る、だからこそ叱られる事を予想していたのだが……

[メイン2] イルル : 「……おお~…あんなもの、どうやって作るのかも検討が付かなかった……」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そういうのも異文化ってやつだな」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…ま、あれだ」

[メイン2] イルル : 竜はそう言った家具を作る必要もない。
だからこそ、”作る”という知識に乏しい。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「イルルの気が晴れたのなら、椅子としちゃ贅沢な役目をこなしてたさ」

[メイン2] イルル : 「……ああ、椅子には申し訳ないが……」

[メイン2] イルル : 「スッキリした、とっても!」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「ならよし」

[メイン2] イルル : 沈んだ顔だったのが、それは晴れやかに言う。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「それにまぁ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…椅子一つで、さ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「いい友人ができたしな」

[メイン2] イルル : 「……!!」

[メイン2] イルル : 「……えへへ、そっか、友だちか」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「そうさ、友人さ」

[メイン2] イルル : 脳裏によみがえったのは、人の”友達”と別れた景色。
もう二度と作られることはないんだと思った、その覚え。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…竜を、さ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「殺せるだなんて、言いはしたが」

[メイン2] イルル : 「…えへへ……うん」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…やっぱ、友人になるほうが」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「何倍もいい気分だ」

[メイン2] イルル : 嬉しく笑いながらも、アイの言葉を聞いて。

[メイン2] イルル : 「…うん、それなら……私も、嬉しいぞ…!!」

[メイン2] イルル : 「竜と人は交わらない、なんて教えられてきたが」

[メイン2] イルル : 「そんな違いなんて乗り越えられそうで、嬉しいんだ」

[メイン2] イルル : 光が翼を受けて、二人を照らしつつ。

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…そうだな、うん」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「触れ合って、仲良くなっていいってのは…」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「…いいもんだ」

[メイン2] 貴腐読アイ : 視線の先には、大地が広がる

[メイン2] 貴腐読アイ : 戦はあれど、世界を守るため

[メイン2] 貴腐読アイ : 諍いあれど、終わりあり

[メイン2] 貴腐読アイ : …そこに、爛れた爪痕は無い

[メイン2] 貴腐読アイ : 「な、イルル」

[メイン2] 貴腐読アイ : 「改めて、よろしく頼む」

[メイン2] イルル : 「うん?」

[メイン2] イルル : 「ああ、こちらこそ……よろしく、だ」

[メイン2] イルル : アイの手に、竜の手で握りしめて。

[メイン2] 貴腐読アイ : その手に、手を合わせて

[メイン2] 貴腐読アイ : にこりと、笑みを見せて

[メイン2] イルル : 「……あっ!」

[メイン2] イルル : 「笑ったな、ふふ……そのくらいなら、私も嬉しいぞ!」

[メイン2] イルル : にこり、笑みを返す。

[メイン2] 貴腐読アイ : 目の前の笑顔に、今はただ

[メイン2] 貴腐読アイ : 自身にとっての、郷愁と愛情を抱き

[メイン2] 貴腐読アイ : 腐り果てたはずの鼓動を、再び重んじて

[メイン2] 貴腐読アイ : 多分、また生きていくだろう

[メイン2] 貴腐読アイ : 例え果てても、死に切れぬのなら

[メイン2] 貴腐読アイ : 楽しく、生きてやろうじゃあないか

[メイン2] イルル : 抱きしめたのだ、強く強く。

[メイン2] イルル : だからこそ、アイの熱も鼓動も全て伝わる。

[メイン2] イルル : 私と同じく『楽しんでいる』のだということが。

[メイン2] イルル : この大地には、爛れた爪痕はない。

[メイン2] イルル : けれど小さなアイの体には、その跡が付いているのだ。

[メイン2] イルル : ならば、ならば。

[メイン2] イルル : ───その体に、竜の爪跡を。

[メイン2] イルル : 塗り替えてみせる、それが私の楽しいこと、だ。

[メイン2] : 2人を照らす天の光は、翼を受けて

[メイン2] : 透き通った黄と淡い赤で

[メイン2] : 眩く、その先を照らしていた

[メイン2] :  

[メイン2] :  

[メイン2] :